『SUPER VOYAGER!』の魅力
演出家 野口幸作が語る『SUPER VOYAGER!』-希望の海へ- の見どころ<前編>
宝塚大劇場デビュー作となったショー『THE ENTERTAINER!』(2016年星組)では、さまざまな趣向のエンターテインメントを盛り込み、観客を酔わせた演出家・野口幸作。今作では、新雪組トップスター・望海風斗の名前にまつわるシーンを散りばめ、宝塚大劇場・東京宝塚劇場でのトップお披露目公演にふさわしい豪華絢爛なレヴューを目指す野口に、その意気込みを聞いた。
今作のタイトルについて。
“SUPER VOYAGER”とは直訳すると「超越した航海者」という意味ですが、これは新たに雪組トップスターになった望海風斗や、これから船出する新生雪組への思いも込めて考えました。望海風斗の“望”、真彩希帆の“希”から“希望コンビ”と私が名付けたのですが(笑)、その雪組新トップコンビの誕生を祝い、二人が今まさに“希望の海”へ乗り出していくイメージです。
タイトルに銘打っている“スペクタキュラー”にはこだわりが?
スペクタキュラーとは、壮観なさまや華やかなさまを表わす言葉です。前回手掛けましたショー・スペクタキュラー『THE ENTERTAINER!』に続き、今回は“レヴュー・スペクタキュラー”と銘打っています。この“スペクタキュラー”シリーズは、今後も続けていけたらと思います(笑)。私自身のモットーとして、“清く 正しく 美しく”にならい、“少し新しく どこか懐かしく かなり感動する”ということを掲げています。
タカラヅカ・レヴューは今年90周年を迎えました。これだけ多くの出演者が登場するレヴューは、ラスベガスやパリにもありません。このスペクタキュラーな部分はやはり創作のうえで大切にしたいですね。また、偉大な先人たちが大階段や銀橋、ラインダンスや羽根など、レヴューの要素を大変な努力の中から編み出されてきました。私たちはさらにそれを超えるアイデアを考えるべきですし、伝統を大切にしつつ、今のお客様に楽しんでいただけるものへとアレンジすることも必要だと思っています。
作品の構想について。
以前、タカラヅカ・スカイ・ステージで放送された「Brilliant Dreams +NEXT」という番組で、望海と真彩が『ファントム』の曲をデュエットしていたのですが、それがとても良かったのです。歌はもちろん、二人の間に漂う深い絆のようなものに感動しました。これを見た時、インスピレーションが湧き、今回の創作の原点になりました。二人はとても歌唱力に秀でたトップコンビだと思いますので、歌のクオリティーが高い、これまでにないレヴューをつくりたいです。
プロローグ「望(HOPE)」のシーンについて。
豪華客船の出航をイメージしたプロローグでは、出演者が客席降りをし、お客様のより近くで“希望ダンス”を踊ります。お客様には、出演者が持つのと同じポンポンをキャトルレーヴで買っていただき、一緒に盛り上がってもらえると嬉しいです(笑)。まずは「幕開けの5分でお客様を惹きつけたい!」という思いがありますので、冒頭から“スペクタキュラー”な演出で魅せてゆきます。また、この幕開きには、望海と真彩が“希望”にちなんだ歌も歌いますので楽しみにしてください。
「海(OCEAN)」のシーンについて。
望海を支える中核のひとり、彩風咲奈をはじめとした雪組の精鋭ダンサーたちに、エネルギッシュに踊ってもらいます。音楽は、日本のアニメーションから選んだ名曲をジャズアレンジでお届けします。ここは録音となるのですが、演奏していただくのが、「Lowland Jazz(ローランド・ジャズ)」というビッグバンド。1980年代、90年代生まれの若い人たちが集まったチームなのですが、彼らに最高に格好良い演奏をしてもらいました。振付は、ダンサーであり気鋭の振付家である三井聡さんにお願いし、新しい風を吹かせたいと思っています。
「風(WIND)」のシーンについて。
今年はレヴュー90周年ですので、そのトリビュート企画を考えています。ひとつは宝塚歌劇団出身のスター・越路吹雪さんが歌った名曲で、岩谷時子さんが訳詞をされたシャンソンを用いて大人の男女の恋愛を描いた、芝居仕立ての場面を盛り込んでいます。この場面は、望海風斗を中心にお届けします。
「斗(BIG DIPPER)」のシーンについて。
“BIG DIPPER”……つまり、北斗七星をモチーフにした場面で、星にちなんだ曲で構成します。こちらもレヴュー90周年のトリビュート企画として、コール・ポーターの名曲をラテンアレンジや、クラブで流れているようなEDMアレンジでお送りします。コール・ポーターといえば「エニシング・ゴーズ」「キス・ミー・ケイト」など、日本でもおなじみの音楽家ですが、彼が残した名曲を現代的な感覚で甦らせたいと思います。
その他の見せ場について。
フィナーレの前に、望海自身をモチーフにしたスペクタクルな場面を考えています。私の作品『THE ENTERTAINER!』では102人のラインダンスの場面を創作しましたが(宝塚大劇場公演での演出)、それに匹敵するようなものを考えています。バスビー・バークレーやMGMのミュージカル映画のような舞台構成で、宝塚歌劇ならではの大人数でのフォーメーションを駆使した華やかで豪華絢爛な場面にしたいと思っています。その後のフィナーレは、現代的で格好いい場面を展開します。最後はトップコンビのデュエットダンス。二人ならではの、歌でも魅せるデュエットダンスを考えていますので、どうぞご期待ください。
演出家 野口幸作が語る『SUPER VOYAGER!』-希望の海へ- の見どころ<後編>
雪組公演『SUPER VOYAGER!』は演出家・野口幸作にとって、初めての大劇場トップスターお披露目公演となる。インタビュー<後編>では、新雪組トップコンビや新生雪組への思いを聞いた。
雪組トップスター・望海風斗の魅力について。
望海は『ドン・ジュアン』(2016年)のように陰りのある荒々しい、少し色のあるキャラクターを演じると一層輝くスターだと思います。彼女は歴代の男役をとても研究していて、「汀夏子さんの『去りゆきし君がために』(1980年雪組)のフィナーレが好き」と、以前語っていました。超越したパッションをお持ちだった汀さんに通じるところも感じますね。そういった面も含め、彼女の男役の美学を詰め込んだものにしたいです。なかでも「風(WIND)」の場面は、振付をANJU先生(元花組トップスター・安寿ミラさん)にお願いしていますので、“ANJU×望海”のコラボレーションに、ぜひご注目いただきたいです。ANJU先生ならではのいろいろなエッセンスを詰め込み、「望海のこういう場面が観たかった!」とお客様に言っていただけるような場面になると、私自身も期待しています。
あらためて、望海風斗の歌、ダンスの魅力について。
彼女が歌うと「この曲には、こんな魅力があったのか!」と再発見させてくれることも多く、楽譜を読み解く力を感じます。丁寧な姿勢で、楽譜に精魂を傾けて向き合い、曲を自分のものにしているところが素晴らしいですね。また、彼女はダンサーでもあるので、ダンスの見せ場も用意しています。クラブで望海と彩凪翔が、女役に扮した朝美絢を奪い合う、格好良いダンスシーンがあります。そして中詰では、振付師・演出家として活躍されているASUKA-TAKAHASHIさん振付の、現代的でとてもクールなダンスシーンも予定しています。今作では、歌はもちろんのことダンスについても、望海を中心とした新生雪組の魅力を、余すことなくお届けしたいですね。
雪組トップ娘役・真彩希帆の魅力と、今作での見せ場は?
真彩は下級生ながらとても頼もしく、何事も高いクオリティーでこなしていくという印象があります。演者としてポテンシャルが高く、観客に大きなパワーを放つことができる稀有な娘役ですので、今作のレヴューでは幕開きの歌を真彩に託しました。“希望コンビ”なので、まずは真彩が歌い、望海が歌うという構成です。また、先にお話した“BIG DIPPER”の場面では、コール・ポーターメドレーで名曲「ビギン・ザ・ビギン」を彼女に歌ってもらい、その後出演者が歌い継ぎます。この二つの歌は彼女にとって大きな見せ場になるでしょう。
その他の出演者や、新生雪組への期待。
彩風咲奈は、私の演出作品『パルムの僧院 -美しき愛の囚人-』(2014年)に主演してから3年が経ちますが、男役の色気やスターの自覚がより増してきたのを感じます。彼女のダンス力をアピールしたいと思い、「海(OCEAN)」のシーンでは約5分間思い切り踊ってもらいます。また、華やかなルックスの彩凪翔と朝美絢、この美しい二人をフィーチャーしたアイドル的な場面も用意しています。他にも、永久輝せあや組替えしてきた綾凰華など、男役がとても充実していますし、娘役も朝月希和が組替えして、さらに幅広い人材が揃いました。雪組は“芝居の雪組”という印象が強い面もありますが、ショースターが集まった今の陣容で、雪組史上に残る名作レヴューをつくりたいです!
トップコンビお披露目公演を初めて担当するにあたって。
やはり今作で、新生雪組の印象がひとつ出来上がると思いますので、さまざまな可能性を感じていただける作品にしたいです。望海と真彩は、歌が上手いということに注目が集まりがちですが、ふたりには多くの魅力があります。他の出演者も「あのスターはこんな面もあるのか」とお客様に感じていただける作品にしたいです。
大先輩である演出家・高木史朗先生が、自著の中で“レヴューに必要な五つのS”ということをおっしゃっています。それは「スピーディー」「スムース」「ショッキング」「スペクタクル」、そして最後に必要なものは「スター」だと。その言葉通り、レヴューはスターをつくるものですので、この作品で新たなスターが生まれればと思いますし、たくさんのスターたちを見ていただける作品にしたいですね。
最後に、お客様へのメッセージを。
“希望コンビ”の誕生であり、新たな雪組の船出です。お客様がこの“新生雪組号”の乗客となり、劇場一体となって一緒に盛り上げていただけたら嬉しいです。タカラヅカ・レヴュー100周年も見据え、心を込めて作品をつくり上げますので、ぜひ劇場でご覧ください!
【プロフィール】
野口 幸作
神奈川県出身。2006年宝塚歌劇団入団。2013年に『フォーエバー・ガーシュイン』(花組)で演出家デビュー。翌年、フランス文学の傑作をミュージカル化した『パルムの僧院 —美しき愛の囚人—』(雪組)を発表。2015年には2部構成のワークショップ公演『A-EN』(月組)を手掛け、エンターテインメント性の高い内容で出演者の等身大の魅力を引き出した。そして、2016年の『THE ENTERTAINER!』(星組)で、宝塚大劇場デビューを飾る。ショーの醍醐味が味わえる洗練された群舞の数々をはじめ、さまざまな趣向で宝塚歌劇ならではの多彩な魅力を表現し、誰もが理屈抜きで楽しめる絢爛豪華なショー作品に仕上げて、大好評を博した。
望海風斗×レヴュー
男役の美学を追求し続ける、雪組新トップスター・望海風斗。これまで、さまざまなレヴューやショーでも、その実力を存分に発揮してきました。そんな望海の出演作品をピックアップし、彼女の魅力を観客に印象付けた場面とともにご紹介します。
花組公演『Mr. Swing!』(2013年)
情熱的な男女がラテンジャズに乗って繰り広げるプロローグ、現代的なビートを刻むダンスシーン、妖艶なデュエットダンス、黒燕尾の男役群舞など、おもわず体と心がスウィングするような見どころいっぱいの作品でした。当時の花組トップスター・蘭寿とむを中心とした花組の豊かな個性が弾け、絡み合い、エネルギーに満ちた熱いショーとなりました。
第6場 Secret Swing
葡萄がたわわに実る秘密の花園で、マスカレードの男・蘭寿とむとマスカレードの女(瀬戸かずや、芹香斗亜、柚香光の役替わり)が妖しくも美しいデュエットダンスを繰り広げる一場面。望海はこの場面を彩る歌手として、情感たっぷりに「This Masquerade」を歌い上げ、劇場全体がその妖艶な空気に酔いしれました。
花組公演『New Wave! -花-』宝塚バウホール(2013年)
望海風斗ら当時の花組若手メンバーによるフレッシュな公演。“100周年”をキーワードに、かつての花組の名場面の再現に加え、古今東西の名曲に乗せて歌い踊る、ライブ感あふれるエンターテインメントショーでした。未来への飛躍が期待される出演者の力が結集された公演として、好評を博しました。
I-6 雨~虹
抜群の歌唱力と繊細な表現力で、井上陽水さんの「傘がない」「氷の世界」を熱唱。叙情的な歌詞と宝塚歌劇の世界観を見事に融合させ、客席を魅了しました。メインキャストのひとりとして、歌はもちろん、踊りでも、その実力を存分に発揮した公演となりました。
花組公演『TAKARAZUKA∞夢眩』(2014年)
当時の花組トップスター・蘭寿とむの退団公演となったこの作品は、従来の宝塚歌劇の華やかなレビュー、ショーに、時代を反映したセンスや感覚を織り込んだ、新しいレビュー、ショーの形が提示された意欲的な作品。「“眩しい夢”の数々が集まって“無限”の可能性に満ちた100周年となるように」との願いが込められ、花組の熱い心と力に惹き付けられた舞台でした。
5th Stage MUGEN LOVERS
真っ赤な戦闘服風の衣装に身を包んだ望海と当時のトップ娘役・蘭乃はなが、「Preserved Roses」(T.M.Revolution×水樹奈々)をデュエット。疾走感あふれるメロディーを歌い上げ、勢いとキレのあるダンスを披露しました。
雪組公演『La Esmeralda(ラ エスメラルダ)』(2015年)
どこまでも続くエメラルドの海をバックに繰り広げられる、情熱の愛と夢の数々を描き、極彩色に彩られたラテン・ショー。当時の雪組トップスター・早霧せいなが体現する“情熱”をテーマに、“ヨーロッパ・ラテン”の世界観を凝縮した作品でした。見どころ満載のロマンティックなステージは、個性派揃いの雪組生達の競演にも注目が集まりました。
Historia-6 Paris amar
白黒のスパンコール衣装に身を包んだ望海が軽快に歌う、沢田研二さんの「ウインクでさよなら」から始まるシーン。望海扮するパリで人気のポップスターであるホープが、恋人と裏通りで迷い込んだのは1920年代のクラブ。不思議でレトロな空間で歌い踊る望海の姿は、圧倒的な存在感を示しました。
雪組公演『Greatest HITS!』(2016年)
熱いエネルギーを放つソウルミュージックに乗せて繰り広げるプロローグから、時に甘く、時に切なく、それぞれの時代に輝きを放ち、今なお愛され続ける数多くの楽曲に乗せて贈る、きらめくハーモニーと情熱的なダンスのショーグルーヴ。クールでありながらもホット、そしてセクシーな魅力を持つグレイテストな雪組をお楽しみいただけるショー作品でした。
第7場A This is the World
誰もが耳にしたことのあるベートーベンの「交響曲第五番ハ短調作品67 運命」を、望海がのびやかな歌声で熱っぽく歌い上げた場面。抗えない“運命”が迫り来る情景が、雪組のコーラス力も相まって、観客の心に突きつけられました。望海の迫力ある歌声、佇まいは、強いメッセージ性を感じさせました。
雪組公演『Dramatic “S”!』(2017年)
“S”をキーワードに繰り広げる「Song&dancing Show」。ショースター(Show Star)として輝き(Splendor)を放つ当時の雪組トップスター・早霧せいな(Seina Sagiri)の退団公演は、雪組(Snow troupe)の魅力を最大限に詰め込んだショーシーン(Show Scene)の数々でお届けしました。
第9・10場 サプール(パリ)
洗練されたおしゃれな紳士に扮した望海と、紳士が想いを込めて描いた絵画から抜け出した美しい女性に扮した真彩希帆が出会うシーン。理想の女性とめぐり会い、真実の愛に気付いた望海が「神様が導いた人に出会った」と高らかに歌う姿は、雪組の輝かしい未来を予感させるシーンとなりました。
確かな歌唱力とその表現力で、観客を魅了し続けてきた望海風斗。
大劇場トップお披露目公演のレヴュー『SUPER VOYAGER!』では、望海の多彩な魅力があふれ、トップスターとしての輝きを放つことでしょう。劇場に足をお運びいただき、望海率いる“新生雪組の船出”をぜひご覧ください!