『ひかりふる路』の魅力
フランク・ワイルドホーン氏×生田大和 対談
宝塚歌劇雪組公演『ひかりふる路~革命家、マクシミリアン・ロベスピエール~』の作曲家・フランク・ワイルドホーン氏と、脚本・演出を手掛ける演出家・生田大和に話を聞いた。今作の楽曲やコラボレーションの感触、雪組新トップコンビへの期待など、さまざまな話題が繰り広げられた。
フランク・ワイルドホーンさんの音楽には常に魂が宿る
おふたりのコラボレーションの始まりについて教えてください。
生田:当初、“全曲をお願いしたいが、無理ならせめて1曲、2曲でも……”と考えておりましたら、「全曲を書きたい」とおっしゃってくださり大変驚きました。そこからすべてが始まったという思いがあります。
ワイルドホーン:私はこれまで、ミュージカルでは必ず全曲を書いてきました。何曲か創ってハイと渡して作品から離れる、ということができないタイプです(笑)。自分の心に湧き上がるものや情熱をキャラクターの中に込め、それを曲に乗せていくと、やはり“全曲を書きたい、全曲を書かねば”と思います。
生田:まだ本格的な打ち合わせに入る前、ほんの少し物語のイメージや、「物語の始まりではロベスピエールは理想を抱いていた」など、物語の骨格をお話しました。その時、フランクさんは笑顔で聞いてくださっていたのですが、数日後に「インスピレーションが湧いたので曲を書いたよ」とメールがあり、驚きました。主題歌「ひかりふる路」を初めて聴いた時は、もう言葉が出ず、泣きそうになったのを覚えています。“どうしてこのようなイメージ通り、いや、イメージをさらに膨らませてくれる、力のある楽曲が今ここにあるのだろう”と、信じられない思いでした。今回、創作の際にフランクさんの音楽によって引き出されるものがとても多かったです。なぜなら、その音楽には常に魂が宿り、そこで何を歌えばいいのかがはっきりと伝わってくるからです。
ワイルドホーン:2曲(制作発表会で披露した「ひかりふる路」「今」)を作曲した後に、英訳された歌詞を読みましたが、とても素敵ですね。私は演劇からではなく、ポピュラー音楽の作曲からスタートした人間ですが、演劇を愛していますし、日本の演劇に関わることを楽しみにしています。その日本で、作詞作曲の新しいパートナーをまた一人持てたことがとても嬉しいです。
生田:ありがとうございます。
ワイルドホーン:打ち合わせ中に行ったセッションも楽しかったですね。生田先生が何かお話して、それをきっかけに私が演奏…と。あの“音楽が生まれる瞬間”がとても楽しかった。私があまりに没頭していたので、「もう一度」と言われても同じようには弾けないぐらいでしたから。その場でピアノの音を録音してくださっていて、本当によかったです(笑)。
今回のコラボレーションで特に感じていることは?
ワイルドホーン:今、私たちは一緒に、とても壮大で大切な作品を創っています。アメリカ人の作曲家と、日本人の演出・脚本・作詞家というコラボレーションは、なかなかないと思いますよ。音楽には国境がないと、あらためて実感していますし、私はふたつの"ストーリー"が同時に進行しているのを感じているのです。ひとつは、この新しい"作詞作曲チーム"の協同制作が向かう先は…というストーリー。もうひとつは、二人のアーティスト(望海と真彩)が、初めてコンビを組んで歩んで行くというストーリーです。そのふたつのストーリーの中で、たくさんの新しい発見があるわけですが、私自身もどんどん夢中になっていくのを感じているところです。
生田:私も宝塚歌劇団に入団してから仕事を積み重ね、今こうしてフランクさんとお仕事させていただけるところに辿り着きました。人と人との縁の思わぬ繋がりの上に人生があり、そしてその周囲にはいろいろなストーリーがあるのを感じています。
雪組新トップコンビの可能性にワクワクする
制作発表会で望海風斗、真彩希帆のパフォーマンスをご覧になっていかがでしたか。
生田:望海が歌っているのを聴いて、私自身も勇気をもらいました。ひとつ形になった安心感もあり、歌声を聴いて新しいインスピレーションも湧きました。特別な瞬間でしたね。
ワイルドホーン:おふたりは本当に素晴らしい音楽家です。日本で何年も仕事をしていますが、最初から"自分の音楽がこのように聴こえたら"と望む形どおりにおふたりは歌ってくれています。これは私にとっても、とても珍しい体験なのですよ。だいもんさん(望海風斗の愛称)は非常にパワフルなシンガーで、ストレートトーンが得意で、音程も素晴らしい。また、とても大きなハートを感じさせる歌手です。まあやさん(真彩希帆の愛称)は、"自分がどこまで才能を持っているか"を、まだご自身では気付いていないと思います。
生田:そうですね(笑)。
ワイルドホーン:彼女のように現代的な感覚を持っていて、自然体でありながらソウルフルな声を、ソプラノの音域で出せる人は希少なのです。スタート地点がそこですから、今後、さらに才能が開花すると思いますよ。だいもんさんもそうですが、おふたりの可能性を考えると、非常にワクワクします!
望海さんの声を聴いてから作曲されたのですか?
ワイルドホーン:そうです。『NEVER SAY GOODBYE』のたかこ(元宙組男役トップスターで夫人である、和央ようかさんの愛称)の時もそうでしたが、やはり声を聴くと、その人のパーソナルな部分が伝わってきます。生田先生が、彼女たちからどのようなもの引き出すのか、とても楽しみですね。私は音楽の寿命は作品を超えたところでも続くと思うのです。例えば、11年前の『NEVER SAY GOODBYE』は、演目こそ再演されていませんが、「NEVER SAY GOODBYE」や「ONE HEART」といった曲は、今でもいろいろな機会にいろいろな方が歌ってくださっています。今回、作曲する楽曲も永く皆様に愛していただけることを願っています。
生田:よくフランクさんは「コンテンポラリーに歌って」とおっしゃいます。歌い方もそうですが、フランクさんの曲自体が、時代を超えた普遍性と現代性を持っていると感じています。ですから歌詞も、この作品に限定されないもっと大きなメッセージ、いつ誰が歌っても成立するものを書かなくてはと思っています。
ワイルドホーン:そうなのです!生田先生は、それを実際にやっていらっしゃるところが素晴らしいですね。初めにこの演目のあらすじを伺った時、とてもドラマチックだと感じました。男女が出会い、そこに葛藤が生まれるという物語は、どの時代をバックグラウンドにしても成り立ちます。つまり、この物語には音楽と同じく普遍的な魅力があるということです。
生田:ありがとうございます。歴史をよりドラマチックに創作できるところがフィクションの強みです。実は最初に、フランクさんから「歴史に恋をしてはいけないよ」と言われました。これはお気に入りのフレーズです。私が歴史に恋をしそうなタイプだと見抜かれたのですよね(笑)。
ワイルドホーン:(笑)。私は大学で歴史を専攻していたからこそ分かるのですが、歴史をそのままお見せしても必ずしも素晴らしいミュージカルになるわけではないってね!
いつでも"冒険や挑戦"を楽しむ気持ちが大切
ワイルドホーンさんは宝塚歌劇にどのような印象を持っていますか?
ワイルドホーン:タカラヅカは本当にユニークで、作曲家としてこれほどのチャレンジができる場所はなかなかないですね。いつもハードなチャレンジにはなりますが(笑)、それを含めて楽しむようにしています。
常に意識していることは、男役さんに、音楽的にも男性的な視点を与えることです。『THE SCARLET PIMPERNEL』は、タカラヅカでも外部の舞台でも成功を収めましたが、それは音楽的な面で男性、女性というのがしっかり分かれていることが一因ではないでしょうか。その意味でも、女性が男性を演じるタカラヅカでの仕事は、毎回、私にとってとてもクールな挑戦です!
生田:フランクさんがよくおっしゃる言葉で私が好きなのが、「冒険をしよう、冒険を楽しもう」です。昔『NEVER SAY GOODBYE』で歌劇団にいらっしゃった時も、お稽古場でおっしゃっていました。
ワイルドホーン:11年前にも言っていましたか!?
生田:はい(笑)。大好きな言葉です。
ワイルドホーン:正直なところ、11年前の『NEVER SAY GOODBYE』は本当に大きな冒険でした。文化の違いというところも含めて冒険でしたね。今回の作品では、だいもんさんもまあやさんも、まだまだ伸びる方たちですから、無難なところでとどまるのはもったいない。さらに成長できると思うので、音楽的な面だけでなく演技的な面でもさらに上を目指してほしいです。
今回、特に注目してほしい楽曲は?
生田:まずはトップコンビのデュエットですね。宝塚歌劇では通常、男役が芯を担い、娘役が一歩下がるというイメージがあります。でも今回は役の関係性はもちろん、それぞれが力のあるアーティストですから、二人が同じ立ち位置で正面切って勝負しないと成り立ちません。それは、光と影など"ふたつの概念が対立する"という作品のテーマにも通じています。物語の後半に登場する曲「葛藤と焦燥」では、二人が歌でぶつかり合う瞬間があります。その場面で劇場内にどういう渦が起こるのか、とても楽しみです。
最後にお客様へメッセージをお願いします。
ワイルドホーン:宝塚歌劇団さんとの関係は、私にとってとても大切なものです。前回ご一緒したオリジナル作品から早いもので11年が経ち、今また新たなチーム、新たなスターの誕生、新たな西洋と東洋のコラボレーションなど、さまざまなことが起きています。その刺激的なエネルギーから、まるで魔法のように魅力的なものが生まれると信じていますので、ぜひ多くの方に劇場へ観に来ていただきたいです!
生田:フランクさんと宝塚歌劇とのコラボレーションを、一番楽しんでいるのは私かもしれません。フランクさんから送られてくる曲を、初めて聴く時の興奮はやはり抑えきれませんね!以前、フランクさんから「安全なところにおらず、危険なところへ行きなさい」とのお言葉をいただきました。そのお言葉通り、今作は作品全体のビジュアル、舞台装置や衣装もチャレンジしたものに仕上げようと思っています。あらゆる面で楽しんでいただける舞台にしたいと考えておりますので、どうぞご期待ください。
【プロフィール】
フランク・ワイルドホーン(Frank Wildhorn)
1959年11月29日生まれ(57歳)アメリカ合衆国の作曲家。特に、ブロードウェイミュージカルの作曲家として知られ、彼が作曲を手掛けたミュージカルは、世界中で上演されている。アジア圏では、日本、韓国で圧倒的人気を誇る。代表作は「ジキル&ハイド」で、ブロードウェイで4年間上演された。1999年、ブロードウェイ、プリマス劇場で「ジキル&ハイド」、ミンスコフ劇場で「スカーレット・ピンパーネル」、セント・ジェイムス劇場で「南北戦争/The Civil War」が上演され、ブロードウェイで自身の作品が3本同時に上演された最初のアメリカ人作曲家となった。ワイルドホーンが作曲したホイットニー・ヒューストンの「Where Do Broken Hearts Go」は世界中で大ヒット、他、ステイシー・ラティソウ、ナタリー・コール、ケニー・ロジャース、パティ・ラベルなどにも楽曲提供している。ワイルドホーンはブロードウェイの音楽家として初めて宝塚歌劇団と共に製作を行い、元宙組トップスター・和央ようかの退団公演『NEVER SAY GOODBYE』の作曲を担当。2015年には作曲を手掛けた新作ミュージカル「デスノート The Musical」日本公演、韓国公演を手掛け、さらに12月には「フランク・ワイルドホーン&フレンズジャパンツアー」として大阪・東京にて自身が手掛けた歴代のヒット曲を集めたコンサートを実施した。
・代表作
「ジキル&ハイド」「ビクター/ビクトリア」「スカーレット・ピンパーネル」「南北戦争」「ドラキュラ」「NEVER SAY GOODBYE」「MITSUKO~愛は国境を越えて~」「シラノ」「モンテ・クリスト伯」「ボニー&クライド」「カルメン」「GOLD~カミーユとロダン~」「ルドルフ」「アリス・イン・ワンダーランド」「デスノート」他、多数。
演出家 生田大和が語る『ひかりふる路~革命家、マクシミリアン・ロベスピエール~』の見どころ
雪組新トップコンビ望海風斗・真彩希帆の大劇場お披露目公演でフランス革命を舞台にしたオリジナル・ミュージカルを手掛ける、新進気鋭の演出家・生田大和。日本初演となった望海主演のフランス産ミュージカル『ドン・ジュアン』(2016年雪組)では潤色・演出を担当し、望海の新たな魅力を引き出して大きな反響を呼んだ。そんな相性抜群のタッグも注目を集める、今作への意気込みを聞いた。
今作のテーマについて。
ひとことで言い表すのは難しいですね。と言うのも、この物語の主人公はロベスピエールですが、彼に対してマリー=アンヌという女性がいる、ということがこの作品のテーマに繋がります。つまり「理想と現実」「光と影」「愛と死」といった“対立する概念”がテーマです。理想の裏には現実があり、光の裏には影があり、愛の裏には死がある。そのような人生の両面を描いた物語になっています。登場人物たちは岐路に立たされているかのように、常にどの道へ進もうか悩んでいます。フランス革命は民衆の地位を向上させましたが、同時に貴族や僧侶の地位や名声を奪い、国王を処刑しました。光を生み出しただけでなく、影も生み出したわけです。マリー=アンヌはそういった革命の犠牲の中から生まれたキャラクターで、ロベスピエールが光、マリーが影を表現するという役割です。
ロベスピエールを主人公にした理由は?
宝塚歌劇には『ベルサイユのばら』や『1789 -バスティーユの恋人たち-』など、フランス革命を題材にした多くの作品があります。それらに共通して登場するロベスピエールは、作品によって描かれ方が違い、ずっと気になる人物でした。革命期に生きた人たちをリサーチすると、ロベスピエールという人は、初めは志高く理想を抱いていたのに、最期には誰からも恐れられる人間になってしまった。なぜそうなったのか、これまで描かれていなかったところを、想像も交えながらぜひ描いてみたいと思いました。彼の生き方はどこか現実離れしていて、フィクションの人物のようにも感じます。そんな彼の波乱に満ちた激しい生き方に惹かれました。
物語を創るうえで、特に心動かされたことは?
これは最も大事なところで、ロベスピエールが生涯独身だったことです。彼は36歳で亡くなるのですが、他の革命家たちの多くが結婚しているなか、彼に妻はいなかった。つまり結婚しなかったのではなく、結婚できなかった理由があり、そこには“許されない愛”があったと想像する余地があると考えました。フィクションのロマンスが入り込む余地が、彼の人生にはあるわけです。それこそが、宝塚歌劇でロベスピエールを主人公に物語をつくろうと思った理由のひとつです。
タイトルに込めた思いは?
濁音のない透き通った言葉、透明感のある柔らかい響きで表現したいという思いがありました。また『ひかりふる路(みち)』というのは、望海がこれからトップスターとして光をたくさん浴びる“みち”であり、ロベスピエールの切り拓いた“みち”を意味します。そしてもう一つは、ギロチン台への階段を上がっていく時、ロベスピエールが最後に見た光景にも通じる“みち”ですね。これらいくつかのイメージを込めて、今回のタイトルを考えました。
フランク・ワイルドホーン氏の楽曲について。
ロベスピエールは演説を通じて、仲間や民衆にメッセージを伝えることが仕事であり、彼が語っていることの本質は、柔らかく光に満ちたものです。彼は自分の理想やメッセージを人々に分け与える必要性を感じていました。そのロベスピエールの思いを舞台で表現するためにパワフルな楽曲が必要になると考えたときに、ぜひフランク・ワイルドホーンさんに楽曲をお願いしたいと思いました。
ロベスピエールを演じる望海風斗について。
彼女は、努力の末にトップに就任した人だと思います。宝塚歌劇のトップスターがあまり演じないであろう役柄でも、魅力を開花させてきたと感じています。例えば、私の作品で言うと、プレイボーイの悪党で最後の一瞬だけ白い面を見せる『ドン・ジュアン』のドン・ジュアンや、バイオレンス的な要素もある『ラスト・タイクーン -ハリウッドの帝王、不滅の愛-』(2014年花組)のブロンソンです。決して善人ではない役でも、その人物の生き様と魅力をしっかり引き出すことができる人ですから、トップスターになったからといって「トップスター的な役柄」でその表現の色の濃さを消すのではなく、活かせる役を演じてもらいたいと考え、辿り着いたのがロベスピエールでした。「白と黒」「光と影」などを自在に表現できる彼女の持ち味を発揮できる役柄だと思います。
真彩希帆が演じるマリー=アンヌについて。
今回の物語に登場するキャラクターのうち、ほぼ唯一の架空の人物がマリー=アンヌです。この人物を創造するインスピレーションの源となったのは、革命期に生きた二人の女性暗殺者です。一人は「マラーの死」という絵でも有名な革命家のジャン=ポール・マラーを殺した、シャルロット・コルデーという美しい女性です。また、もう一人、ロベスピエールの暗殺を計画して失敗したセシル・ルノーという女性がいます。女性が暗殺を計画するという点や、美貌で民衆の人気を集めたという点など、この二人の女性の存在はとても興味深く、発想の起点となりました。
今作は望海風斗、真彩希帆の新雪組トップコンビお披露目公演となるが。
フランス革命を描いた物語ではありますが、歴史にとらわれすぎず、望海と真彩の演技力と歌唱力を通して、一つの究極の愛の形を描きたいと思います。もちろん、革命ならではの群衆シーンなどもありますが、あくまでロベスピエールとマリー=アンヌとのロマンスを大きな核とし、いかに“想像をかきたてる深い愛”を描けるか。そこが見どころになると思います。
やはり、フランス革命は宝塚歌劇の舞台にマッチするか。
魅力的な人物が多く、誰を主人公にしても物語が成立する時代ですよね。友人を気遣いつつ現実に直面して窮地に陥るジョルジュ・ジャック・ダントンの人生も非常に惹かれますし、カミーユ・デムーランという一本気な男の物語を題材としても面白い。また、ロベスピエールの一番の側近であるサン=ジュストの存在や、“ジロンド派の女王”と呼ばれたロラン夫人も興味深いです。価値観が揺らいでいる時代だからこそ、それぞれの人間の生き様が表立って見えてくるのだと思います。彼らの人生から、お客様それぞれが人生の在り方を見出していただければうれしいです。
ダントンを演じる彩風咲奈について。
ダントンは友情と仁義に厚く、非常に泥臭く、オレ様的なキャラクターです(笑)。私はロベスピエール、ダントン、デムーランを“革命三兄弟”と呼んでいます(笑)。もちろん、実際には兄弟ではありませんが、すぐに行動に移すダントンが長男、思慮深く内に篭もるタイプのロベスピエールが次男、沙央くらまが演じる直情型のデムーランが三男というふうに、それぞれのキャラクターのカラーを出してほしいですね。ダントンを演じる彩風はこれまでこういった役柄とは縁があまりなかったと思うので、この役を通して彼女の新しい魅力をご覧いただければと思います。
新生雪組への期待。
新生雪組は、もちろん望海が頼もしく引っ張っていってくれるでしょうが、一人ひとりが意識を高く持ち、力を存分に発揮していく時期だと思います。雪組は伝統的に、団結力のある組という印象です。『ドン・ジュアン』で特訓したフラメンコもそうでしたが、何か一つの目標に向かい、全員で邁進していく力があります。稽古場では私が投げかけたものに、思いがけないものが返ってきたとしても、私自身がそれを吸収して反映することで、いい信頼関係を築くことができればと思っています。
最後に、お客様へのメッセージを。
宝塚歌劇で長年親しまれてきたフランス革命という題材に、新たな命を与えたいですし、分かりやすい作品になっていると思います。そして、望海と真彩の新トップコンビは、まだまだこれから成長し、変化してゆくでしょう。日々の公演の中でどう変わっていくのか、その過程も見守っていただければ幸いです。フランクさんの楽曲の素晴らしさもあったり、いろいろな要素が相まって魅力ある公演になると思いますので、ぜひ楽しみに劇場へいらしてください。
【プロフィール】
生田 大和
神奈川県出身。2003年宝塚歌劇団入団。2010年、『BUND/NEON 上海』(花組)で演出家デビュー。2014年に、F・スコット・フィッツジェラルドによる小説を基にした作品『ラスト・タイクーン』(花組)で宝塚大劇場デビュー。その後、劇作家ウィリアム・シェイクスピアの半生を描いた『Shakespeare ~空に満つるは、尽きせぬ言の葉~』(2016年宙組)や、フランス産ミュージカルの日本初演『ドン・ジュアン』(2016年雪組)の潤色・演出を手掛け、高い評価を受ける。2017年、宝塚歌劇では24年ぶりの再演となった『グランドホテル』(月組)で岡田敬二とともに演出を担当し、初演と異なるキャラクターを主人公に据え、退廃的でありながら生きることの素晴らしさを語りかける舞台は感動を呼んだ。
ロベスピエールの生涯
雪組公演『ひかりふる路(みち) 〜革命家、マクシミリアン・ロベスピエール〜』は、革命家として名を馳せたマクシミリアン・ロベスピエールの生涯を描いたミュージカルです。時に冷酷な独裁者として取り上げられることもあるフランス革命の中心的人物ですが、実際はどのような青年だったのでしょうか。理想に燃え、歴史を駆け抜けた彼の姿に迫ってみましょう。
弱者に寄り添うため弁護士に
ロベスピエールは、1758年に北フランスのアラスで、祖父も父親も弁護士という代々法律家の家系に生まれました。ところが、6歳の時に母親が亡くなり、その後、ショックで堕落した父親が失踪すると、10歳で3人の弟妹の面倒をみることになります。そんな不遇な少年時代を過ごしたロベスピエールですが、自らの力で運命を切り拓きます。成績優秀だった彼は11歳の時、奨学金を得て、パリの名門校に進学。輝かしい成績を収め、故郷に戻って弁護士になりました。立場の弱い人々や貧しい人々、困っている人々を助けたい…それが法曹の道を選んだ理由でした。正義感あふれる若きロベスピエールは、社会的弱者の弁護を精力的に引き受け、その手腕を発揮しました。
信念を胸に革命の道を歩む
1789年、地方の無名弁護士だったロベスピエールは、身分制議会である三部会議員選挙に、第三身分(平民)から立候補し当選。こうして政治家として歴史の表舞台に登場しました。不平等な三部会に不満を持つロベスピエールら第三身分の議員たちは三部会から独立した国民議会を発足させると、憲法制定までは解散しないことを誓う「テニスコートの誓い」を宣言します。その後、国民議会に第一身分、第二身分の議員も加わると憲法制定国民議会と改称し、ついに1791年に憲法が制定されました。そして、1792年には王政の廃止が宣言され、フランスは共和国となったのです。
こうした流れの中で、対立しながらもこのフランス革命を牽引したのは、穏健派のジロンド派と、ロベスピエールが属した急進派のジャコバン派でした。全ての民が自由で平等に暮らせる社会を目指したロベスピエールは、民衆を擁護し共に革命運動を推進しようと情熱を燃やし、議会では常に一般民衆の側に立って熱弁をふるいました。しかし、人道主義を重んじた彼の主張は、他の議員たちに否定され、その思いとは裏腹な政策が実施されることもありました。革命初期に死刑制度の廃止を強く訴えたのも、ほかならぬロベスピエール本人でしたが、後に、彼自身が多くの反革命派を死刑制度によって粛清することになるのは皮肉な結果と言えるでしょう。
独裁者と呼ばれたロベスピエール
1793年、議会からジロンド派が追放され、ジャコバン派の革命政府が誕生。ロベスピエールは、国会である国民公会の中枢に位置する公安委員会のメンバーとなり、名実ともに最高指導者となりました。ジロンド派追放に反発する勢力、革命に反対するヨーロッパ諸国との対戦という逆風にも負けず、“正義の社会を作る”という理想を見失うことのないロベスピエールでしたが、次第に革命に懐疑的になる民衆が増えていく中で政治を行うには、強硬な手段が必要でした。反革命を訴える人や反革命派と疑わしき人を、強制的手段によってやむなく排除していきます。そんな“恐怖政治”と呼ばれた施政下で、反ロベスピエールの気運が高まった1794年7月27日、彼はクーデターによって逮捕され、裁判にかけられることもなく翌28日に処刑されてしまうのでした。
民衆の真の自由と平等を考え、より良い国作りを目指し、ただまっすぐに理想を追い求めた革命家 マクシミリアン・ロベスピエール。その生き様を新たな視点で描いた雪組公演『ひかりふる路(みち) 〜革命家、マクシミリアン・ロベスピエール〜』を、どうぞ劇場でご覧ください!
参考文献
遅塚 忠躬『フランス革命 歴史における劇薬』(岩波書店)
安達 正勝『図解雑学 フランス革命』(ナツメ社)
神野 正史『世界史劇場 フランス革命の激流』(ベレ出版)
宝塚歌劇×ロベスピエール
宝塚歌劇では、これまでロベスピエールが登場する作品が多数上演されてきました。同じ人物をモデルにしながらも、作品の内容や描かれる角度によってその印象はさまざまです。その中から、近年の作品に登場したロベスピエールをご紹介します。
『ベルサイユのばら—オスカル編—』(2014年宙組)
代々フランス王家を守る家柄に生まれたオスカルは、女性でありながら“男”として育てられ、やがて近衛武官として活躍するようになる。ある時、圧政に苦しむ民衆の実情を知り、人民を守る衛兵隊へと転属を願い出る。そこで出会った革命家たちの熱い思いに触れて…。
宝塚歌劇100周年の年に上演された「オスカル編」では、これまでと違う側面から物語が描き出されました。
物語内のロベスピエール
国民会議場が閉鎖された際、国民議会解散を要求する政府に「断固反対しよう!」と市民に呼びかける場面や、バスティーユ牢獄内の罪なき仲間たちを奪還する場面などで大活躍。“自由・平等・博愛”を示す三色旗を誇らしげに掲げる姿は、若さに溢れ、情熱的で爽やかなロベスピエールを観客に印象付けました。
『ルパン三世 —王妃の首飾りを追え!—』(2015年雪組)
現代のフランス・ベルサイユ宮殿で開かれる展示会から“マリー・アントワネットの首飾り”を盗もうとしたルパン一行。その瞬間、革命前夜のフランスへとタイムスリップ!そこで、本物のマリー・アントワネットと出会い…。
世界中で愛される人気漫画「ルパン三世」が宝塚歌劇に初登場し、注目を集めました。
物語内のロベスピエール
革命に燃える生真面目なロベスピエールとして描かれ、クライマックス近くではルパンと対決するシーンもありました。拳銃を手にしたルパンに追い詰められるという緊迫感溢れる展開ながらも、最後には笑いを誘う「ルパン三世」らしいこのシーンは、ロベスピエールの見せ場となりました。
『1789 -バスティーユの恋人たち-』(2015年月組)
1789年初頭、官憲に父親を銃殺された青年・ロナンはパリに出て、デムーランやロベスピエール、ダントンら革命家と知り合い、新しい時代の到来に希望を託す。一方、ヴェルサイユ宮殿では、ルイ16世やマリー・アントワネットが華美な生活を続けていた…。
フランスの人気作品が、宝塚歌劇バージョンとして日本初上演されました。
物語内のロベスピエール
革命に身を投じる情熱や、理想と自分の意志を強く持つ、清廉な青年として登場。市民の言葉を届けたいという思いで議員になるなど、現実的で逆境をも乗り越える強さを持った人物として描かれています。終盤では、王制廃止後に独裁者となっていく片鱗も感じさせていました。
『THE SCARLET PIMPERNEL(スカーレット ピンパーネル)』(2017年星組)
18世紀末のフランスでは、革命政府の統治下で貴族たちが次々に断頭台へ送られていた。恐怖政治に反感を抱くイギリス貴族のパーシー・ブレイクニーは、その正体を隠し、無実の罪で捕らわれた貴族たちを国外逃亡させる活動を行っていた…。
2008年の星組による初演が好評を博し、2010年月組で再演され、2017年に再び星組で上演された人気の作品です。
物語内のロベスピエール
最高権力者として君臨し、その“独裁政治”によって人々に恐れられる人物として描かれました。“自由・平等・博愛”を信じ、革命の成功だけを望んで進んできた彼が、その思いを民衆に理解されない葛藤を歌い上げるシーンが印象的でした。
作品によって、さまざまな描かれ方をしてきたロベスピエール。『ひかりふる路(みち) 〜革命家、マクシミリアン・ロベスピエール〜』では、どのような彼と出会えるのでしょうか。新しいロベスピエールの誕生にご期待ください。