演出家インタビュー
演出家 大野拓史が語る 『NOBUNAGA<信長> -下天の夢-』の見どころ
2008年、月組公演『夢の浮橋』で宝塚大劇場デビューを果たした演出家・大野拓史。英国王の虚像と実像を描き出した『エドワード8世』(2012年月組)など、モダンな感覚の作品を生み出す一方で、『一夢庵風流記 前田慶次』(2014年雪組)といった日本物の名作を数々手掛けてきた。ロック・ミュージカル『NOBUNAGA<信長> -下天の夢-』では、歴史的人物の中でも人気の高い織田信長を主役に、同時代を共に戦い、夢を抱き、愛し合った人間たちのドラマを生み出す。龍真咲の退団公演でもある本作への思いを、大野に聞いた。
既存の価値観に流されない龍真咲が信長に重なる
——織田信長を主役にした舞台をつくろうと思った理由は?
制作発表会で龍が「織田信長を演じてみたかった」と言っていましたが、私自身、織田信長は龍に合っていると思ったからです。彼女の既存の価値観に流されないところが信長に通じるなと思っていました。龍は“タカラヅカの男役はこうでなければならない”というのを飛び越え、独自の格好良さ、スタイルを持ち、大勢の観客を魅了している。織田信長も行政的にも軍事的にも新しい価値観で動いた人物です。だからこそ日本人は織田信長が好きなのでしょうね。それぞれの人に理想の信長像があると思いますが、“自分の力を試したい”という抑えきれない思いを持っている、そんな龍真咲らしい織田信長を描きたいですね。
——織田信長に扮した龍真咲のビジュアルを見て。
髭を付けていつもより強い印象ですよね。彼女はそれこそ、『風と共に去りぬ』のスカーレット役など自然に女役もできるきれいな顔立ちの人です。髭を付けても強靭なイメージというより、精悍な感じの“美しい信長”であればいいなと思います。ポスターの背景は「安土城天主 信長の館」(滋賀県)までロケに行きました。スペイン・セビリア万国博覧会に出品するため、安土城の上層部分を復元したもので興味深かったです。ちょうど龍の絵が描かれていたので、その前で撮影しました。今回制作発表会で龍が歌ったナンバーの中でも、“私の中に龍がいる”というように歌っています。この曲は主題歌ではないのですが、ある気に入った場面で歌ってもらう予定です。
——織田信長は天下統一の目前までいきますが…。
私は「彼の本当の目的は天下統一ではなかったのかも…。」とも思っているんですよ。天下布武を掲げて、武力でもって日本を制すると言いますが、実際に彼が何をやりたかったのかは謎な部分も多いわけです。周りの人間が彼に夢を託したり、逆に反発したりということもあった。その中で、信長はやむにやまれぬ思いに突き動かされていた、というような物語にしたいと思っています。それこそ龍真咲が演じるべき信長だと思っています。
ロックの力で現代に通じる様々な思いを届けたい
——この作品は“ロック・ミュージカル”ですが、伝統的な日本物とは違うのか?
そうですね。私自身がロック・ミュージカルと聞いて思い浮かべるのは、『ジーザス・クライスト・スーパースター』や『エビータ』など、わりとオールド・ファッション的なロック・ミュージカルです。若者の風俗を取り入れながら、ロックが登場人物の情動を表すようなミュージカルは、題材を等身大に惹き付ける魅力があります。日本物だからといって当時の常識をきちんと踏まえるというより、今の人々も抱くような思いを描く手段として、“ロック・ミュージカル”のスタイルを借り、表現していくつもりです。
——信長と正室・帰蝶との関係も興味深いところですが。
帰蝶とは濃姫のことですが、なぜ帰蝶という名前を選んだかというと、荘子の「胡蝶の夢」が思い浮かんだからです。今ある現実が本当なのか、蝶になって飛んでいる夢が現実なのか、というあの説話です。信長がガッと突っ走るタイプの人間なので、それとは別の世界を感じられるような、帰蝶が一歩引いて彼に問いかけるような存在になればと期待しています。
——その他のキャラクターについて。
珠城りょうが演じるローマ出身の騎士・ロルテスは、悪ならではの魅力、男らしさの強い役です。彼女には今こそこういう役を演じてほしいとキャスティングしました。信長の周りにいる人には、途中で彼を裏切る者も含めて、最初は同じ夢を見ているようなところがあります。ただ、見ている夢にズレが出てきたりするのですが…。明智光秀と豊臣秀吉には、信長と同じ夢を見ながら立場や受け取り方の違いがあり、その対比を見せていくのが面白いだろうなと思っています。
自由度の高い日本物。宝塚歌劇ならではの美で魅せる
——日本物に魅了される自身のルーツは?
なんでしょうか(笑)、幼い頃から時代劇が好きだったというのはあるかもしれないですが、宝塚歌劇の演出家としては比較的想像力を広げるのが許される世界だからだと思います。歌舞伎もそうですが、タカラヅカの日本物は “これをやったらNG”というボーダーラインさえ覚えてしまえば、結構自由に世界をつくり上げることができる。『一夢庵風流記 前田慶次』の冒頭では、彼の超人的な力を見せるため映像とコラボレーションした殺陣を取り入れました。別にスペクタクルにしようと思ったわけではないのですが、その人物像をどのように見せたらいいか、というのはいつも考えています。ただ映像などに頼り過ぎず、やはり生身の役者、人間ドラマが浮き立つように演出したいと思っています。
——お客様へのメッセージ
タカラヅカには、美しいものが大好きな人たちが集まっています。そういう意味でも“美”を意識しながら、宝塚歌劇ならではの日本物の世界をお見せします。戦国の世は日本史的にも面白い時代です。その中で、龍が演じる織田信長は、“そうくるか!”と驚きながらも納得させられる瞬間をお届けできるはずです。そこが彼女の真骨頂だと思いますので、ぜひ期待していてください。
演出家 藤井大介が語る 『Forever LOVE!!』の見どころ
1997年月組バウホール公演『Non-STOP!!』で演出家デビューし、その才能で早くも注目を浴びた藤井大介。デビュー以来、『EXCITER!!』(2009・2010年花組)、『CONGA(コンガ)!!』(2012年花組)、全場で大階段を使用した『HOT EYES!!』(2016年宙組)などエネルギッシュなショー作品を次々と送り出してきた。『PHOENIX 宝塚!! —蘇る愛—』(2014年宙組)、『Dear DIAMOND!!』(2015年星組)をはじめ、トップスターの退団公演も多く手掛け、スターの個性を引き出す手腕に長けた藤井大介が龍真咲の、そして月組のどんな魅力を引き出すのか。現時点の演出プランなどを聞いた。
龍真咲は独自のセンスを持ったスター
——改めて龍真咲の魅力は?
龍は宝塚歌劇100年の中でも、いそうでいなかったタイプだと思います。独自のセンスを持っていて、それを下級生の時から貫いている。例えば普段のファッション、トークの面白さ、裏表のないストレートな性格も魅力。スカーレットのような女役や、妖精・パックも演じられて、役にポーンと入っていける潔さがあります。現代的に見られがちだけど、龍自身タカラヅカが大好きで、その伝統を守っていきたいというクラシカルな面もある。そのギャップが面白いですね。
——龍真咲の退団公演を手掛けるにあたって、今の思いは?
龍とは入団5年目で初主演を果たしたバウ・ワークショップ『Young Bloods!!』-Sparkling MOON-(2006年月組)以来の長い付き合いなので、同じ釜の飯を食べた人がまた一人いなくなる寂しさがあります。でも本人は本当にサバサバとしていて明るいので、送る方もなるべく明るく送り出そうという感じですね。ただ、みんなに担ぎ上げられ「バイバイ」と去っていくよりも、一人トランクを持ち振り向いて、「じゃあ」というようなクールな方が合うような気がします。
様々なジャンルを歌い分ける歌唱力を存分に生かす
——制作発表会では龍真咲が主題歌を披露しました。
あの主題歌は6分ほどあるのですが、別の公演中にも関わらず1回の歌稽古でしっかり曲をつかんで、気持ちを込めて歌ってくれました。ただ明るいだけ、ただ暗いだけの歌にはしたくなかった。人生のように波があり、ドラマがありということで変化をもたせた曲調になりました。そして最後は明るく締めくくる……。やはり龍は元気な人なので、ポジティブなイメージでつくりました。歌詞も気に入ってくれたようで良かったです。
——今回も龍真咲の様々な歌が聴けるのか?
『Forever LOVE!!』では色んなジャンルの歌を歌ってもらいたいと思っています。『DRAGON NIGHT!!』(2015年月組)でも感じたのですが、龍はクラシックもいければジャズもロックもいける。バラードもうまいし、今流行りのJ-POPも歌いこなせる。やはり声がいいですよね。色のある艶のある声というか。かなりキーの幅が広いので、様々な歌を歌ってもらいたくなります。一つの色に固まらないので、演出家として龍と作品をつくっていると面白いです。
冒険し続ける月組は、収まりきらない面白さがある
——今の月組の魅力は?
月組は龍のカラーなのか、とにかく冒険をしていく、“収まりきらない面白さ”があります。相手役の愛希れいかも、豹変型というか役によってガラッと変わりますから。月組トップコンビの二人は持ち味が似ているというイメージを持っています。ただ仲良くというだけではなく、刺激し合う大人の関係で、お互いがお互いを高め合っている印象があります。珠城りょうはとても努力家でコツコツまじめにやっている人ですね。若手ですが歌えて踊れて演技もできる。さらにそこに、龍のような自分だけの色が付いてきたら、ますます魅力が増すでしょうから楽しみですね。
——今の月組は龍真咲を中心に勢いがあると?
そうですね、『TAKARAZUKA 花詩集100!!』(2014年月組)や宝塚大運動会の時からも、体育会系というノリで突き進んでいますね。100周年記念公演を担当したときは、龍と「すごいよね」と言いながらつくっていたのが懐かしいです。『Forever LOVE!!』は月組をずっと支えて盛り立ててくれた龍真咲の退団公演なので、心を込めてつくっていきたいです。
“愛”と“パワー”に溢れたショーを
——自身は幼い頃から宝塚歌劇を観ていたそうですね。
実は生後3ケ月から観ています。初めて観たのは真帆志ぶきさん主演の『回転木馬』。普通赤ん坊だと大きな音にびっくりして泣き出すのが、泣かずに食い入るように観ていたそうです。自分の記憶に残っているのが『ベルサイユのばら』の初演ぐらいから。親戚が宝塚歌劇の大ファンで、毎公演必ず1回は観るようになりました。それから自然に「僕はタカラヅカに入るんだろうな」と思っていましたね(笑)。当時、あまり大きな声では言えなかったですが、幼い頃からショーの案などをノートに書き留めていて、今でもそれが残っています。
——天職についたというわけですね。
いえいえ、幼い頃からの記憶で色々なものが染みついているので、実際にショーをつくるときは、それらを一度取り払って新しいものを生み出す努力をしています。私はやっぱり出演者の一番いいところを引き出してあげたい、ということを常に考えています。そしてお客様がご覧になった後に元気になれる、パワーをお届けできるステージを目指しています。
——お客様へのメッセージ
『Forever LOVE!!』のテーマは“愛”です。月組を引っ張ってきてくれた龍への愛、そして龍から月組のみんなやお客様への愛を充分にお届けできる、“愛”に溢れたショーを一丸となってつくっていきたいと思います。龍真咲が持つ夏の太陽のようなイメージと、ポジティブさを前面に打ち出し、熱いステージをお贈りしますので、ぜひ何度でもご覧ください!