制作発表会レポート
11月16日(木)、宝塚歌劇花組公演 ミュージカル・ゴシック『ポーの一族』の制作発表会が行われました。
記者会見には、宝塚歌劇団理事長・小川友次、宝塚歌劇団演出家・小池修一郎、花組トップスター・明日海りお、花組トップ娘役・仙名彩世、柚香光に加え、「ポーの一族」原作者の萩尾望都氏にもご登壇いただきました。
名作漫画、初のミュージカル化!
「ポーの一族」は、少女漫画界で長年にわたって数々の名作を生み出してきた萩尾望都氏が、1972年に「別冊少女コミック」に第1作を発表し、少女漫画の枠を超えて幅広い層の読者に愛されてきた作品です。漫画史上の傑作と呼ばれるこの作品に魅了された小池修一郎が、「いつか舞台化させて欲しい」と申し出て以来30年余り、萩尾氏があらゆる上演希望を断り続けた幻の舞台が、ついに宝塚歌劇の舞台に登場。豊かな表現力で舞台を彩るトップコンビ・明日海りおと仙名彩世を中心とした花組が、この話題作に挑みます。
原作の世界観あふれるパフォーマンスに、高まる期待
制作発表会は『ポーの一族』の作曲・編曲を担当する太田健のピアノ伴奏にのせたパフォーマンスから始まりました。
照明が落ちると、壇上には主人公のエドガー・ポーツネルに扮した明日海りおの後ろ姿が浮かび上がり、会場は神秘のベールで包まれます。振り返った明日海の漫画から抜け出したかのような容姿に、おもわず息をのむ場内。そこに、シーラ・ポーツネル男爵夫人に扮した仙名彩世とアラン・トワイライト役の柚香光も加わり、主題歌「ポーの一族」を披露。明日海と柚香の掛け合いも交え、謎めいた「ポーの一族」の世界を表現しました。
続いて、壇上に独り佇む明日海が劇中で歌われる楽曲「哀しみのバンパネラ」で、永遠に命尽きることのないバンパネラの孤独と哀しみを切々と歌い上げると、作品の世界観に引き込まれた場内からは割れんばかりの拍手がわき起こりました。
大ヒット漫画の初のミュージカル化に個性豊かな花組メンバーが挑む、ミュージカル・ゴシック『ポーの一族』。新しい年の幕開けを華麗に彩る公演に、どうぞご期待ください!
- 制作発表会 ムービー
パフォーマンスの後、「ポーの一族」原作者の萩尾望都氏、演出家の小池修一郎、花組トップスター・明日海りお、花組トップ娘役・仙名彩世、柚香光によるトークショーが行われました。原作者の萩尾氏を前に、はじめは緊張の面持ちだった花組出演者ですが、司会の中井美穂さんの軽快な進行のもと、時には会場の笑いを誘うなど、和やかな雰囲気の中で役に対する熱い思いを語りました。
待望の舞台化は偶然と必然と奇跡の融合
中井:萩尾先生、まずは、パフォーマンスをご覧になった感想をお聞かせいただけますか?
萩尾:この世のものとは思えぬほどの美しい世界を見せていただきまして、感動で言葉になりません。皆さま、私が抱いていたイメージ以上に美しく、今、隣にいらっしゃる明日海さんを見るだけで、心臓がバクバクします(笑)。音楽も大変素晴らしく、感激しております。すべての皆さま、ありがとうございます。
中井:花組の皆さんは、今日、役に扮してパフォーマンスを披露されましたが、いかがでしたか?
明日海:ポスター撮影で扮装はしましたが、実際にこうして、皆さまの前で漫画のキャラクターを立体化させることの責任の重さを感じて、大変緊張しました。
仙名:私も、皆さまの目にはシーラという役がどのように映るのか考えると大変緊張しましたが、同時にワクワクもしました。素敵なピアノの生演奏もあって、作品の世界観をお伝えできたのではないかと思います。
柚香:皆さまの前で役として動き、歌うということにとても緊張しました。先ほど、照明を浴びた明日海さんを舞台の袖から拝見した時の、ゾクゾクッとした感覚…「もし、本当にバンパネラを見たなら、こんな感じだろうな」という感覚を、舞台の上でも表現したいと思いました。
中井:小池先生は、萩尾先生原作の漫画「ポーの一族」を舞台化するのが夢だったとお聞きしています。
小池:はい。「ポーの一族」は私が宝塚歌劇団の演出家を目指すきっかけになった作品ともいえます。学生時代、少女漫画をほとんど読んだことはありませんでしたが、友人に勧められて読んだ「ポーの一族」の、バンパイア伝説とSFを融合させたような前衛的なストーリーと、大変美しい画に強い衝撃を受けました。舞台を創る仕事をしたいと考えていた私は、漠然とではありますが、「これをいつか宝塚歌劇で上演したい!」と思い始めたわけです。
中井:小池先生と萩尾先生はどのようなご縁なのですか?
小池:私がまだ演出助手をしていた頃、とある場所で偶然、萩尾先生と隣り合わせることがありました。憧れの先生に話しかけるチャンスはもう二度とないと、思い切って“ファンです”とお声をかけさせていただいた上に、名刺までお渡ししたのです。
萩尾:男性の方から「ファンです」と言っていただくことはあまりないので、ちょっとびっくりしました(笑)。その頃、たまたま私もミュージカルの脚本を書いていたものですから、いただいた名刺を頼りに、小池先生にご意見を伺ったのがご縁の始まりです。
小池:萩尾先生からご連絡をいただいた時は、本当にびっくりしました。
中井:小池先生が萩尾先生に「ポーの一族」の上演許可をお願いされたのはいつごろでしょうか?
小池:最初にお会いした時です。
中井:初対面で、ですか?
小池:はい(笑)。このようなチャンスは二度と訪れないと思ったものですから。約束から30年以上、なかなか夢は叶いませんでしたが、ポスター撮影の時に扮装した明日海りおを見て、彼女に演じさせるために“運命の神”がこれまでその状況を作らなかったのだなと思ったくらい、イメージ通りのエドガーでした。
中井:“降臨した”と感じるほど素敵でしたよね。ところで、萩尾先生は宝塚歌劇をよくご覧になるのですか?
萩尾:中学・高校の時、大阪に住んでおりまして、その頃『霧深きエルベのほとり』を観に行ったのが最初です。それまで映画やスポーツ界で“かっこいい男性”はたくさん見ていましたけど、“美しい男性”を見たのは初めてだったので、とても衝撃を受けました。今は、年に2、3回は観せていただいております。
中井:初のミュージカル化にあたって、小池先生にご注文はありますか?
萩尾:ありません(笑)。先ほどのパフォーマンスでも、小池先生のこだわりがよくわかりましたので、安心してすべてお任せします。
トークショー<後編>では、今回、難役に挑む花組トップスター・明日海りお、花組トップ娘役・仙名彩世、柚香光の出演者の声を中心に、役作りやこの作品への思いなどをお届けします。
“そのすべて”が魅力的な登場人物たち
中井:花組出演者の皆さんは原作を読まれて、どのような印象をもたれましたか?
明日海:普段台本を読むときは、自分の演じる役柄の感情を追いながら読み進めますが、「ポーの一族」は、さまざまな登場人物たちの思いが押し寄せてきて、胸が苦しくなるほど入り込んでしまいました。でも、その苦しい時間が楽しくて仕方なくて(笑)。トキメキのたくさん詰まった素敵な作品ですよね。エドガーというキャラクターは、表情や身体のラインから背後に感じさせるオーラまで、私にとってはすべてが魅力的です。少年なのにセクシーさもあり、とても惹きつけられます。年齢が止まったまま何年も時が経過していくので、外見的に同じ年代の少年とは全く違った感情が流れているでしょうし、バンパネラになったことによって彼が失ったもの、逆に抱えなければならないもの…その悲しみや葛藤をどう表現するか、今悩んでいるところです。
仙名:私が強く感じたのは“愛”です。シーラという女性は外見的には美しい貴婦人ですが、とても情熱的で妖艶な部分もありますから、その部分をうまく表現したいです。そして、人間とバンパネラの間で葛藤するエドガーの姿を間近で見ながら、包み込んであげられるような優しさや母性愛のようなものも表現したいと思います。女性として魅力的に見えるように、これからたくさん研究します。
柚香:「ポーの一族」を読んで、自分でも衝撃を覚えるほど、想像力をかきたてられました。キャラクターの感情やキャラクター同士の関係性の面白さはもちろんのこと、音楽や香りさえも想像させられるような世界観に、とても魅力を感じています。アランの第一印象は、感情を真っ直ぐに受け取ることのできる純粋な人だな、というものでした。孤独を感じているアランが愛を求めながらも、それを人に悟られたくなくて意地を張っている部分も魅力だと思うので、アランという人物をさまざまな角度から捉えて、人物像を創っていきたいと思います。
中井:最後に、公演に向けての抱負を一言ずつお願いいたします。
小池:「ポーの一族」という漫画には熱烈なファンの方がたくさんいらっしゃいます。原作のファンの方には、それぞれに大切にされているイメージがありますし、明日海のファンの方には明日海に対するイメージもあると思います。現在の花組の陣容や、萩尾先生が最初に「ポーの一族」を発表された1972年という時代背景などを考えながら何度も読み直し、今の私たちにできる最善のものを目指して取り組んでおりますので、楽しみにお待ちいただけたらと思います。
柚香:このような魅力的な作品にご縁をいただきまして、とても感謝しております。多くの方々から大切にされ、愛され続けている作品ですので、原作ファンの方々、そしてご観劇くださるすべての皆さまに喜んでいただけるような作品づくりをしていきたいと思っております。心を込めて、真摯に役に向き合ってまいります。
仙名:萩尾先生と小池先生の「ポーの一族」への“愛”や“夢”を伺い、今とても身の引き締まる思いでいっぱいです。私も作品の中で、役として息づけるように、そして先生方の思いのすべてをご観劇いただくお客さまにお届けできるように、責任を持って大切に作品を創りあげていきたいと思います。
明日海:萩尾先生と小池先生、そして原作ファンの皆さまにもご納得をいただけるような舞台をお届けしたいと思っております。萩尾先生の“画”を拝見して、そこから“エドガーはどんな声をしているのだろう”と、私自身のイマジネーションを最大限に活用して挑まなければなりませんし、大変特別な役だと感じております。その自覚をしっかりと持ちながら、出演者全員で力を合わせて舞台を創りあげていきますので、どうぞよろしくお願いいたします。
萩尾:私のイメージを超えた美しい舞台が目の前に広がるのが予感できて、今からドキドキワクワクします。楽しみにしております。どうぞよろしくお願いいたします。
原作者からの大きな期待を受け止めた花組出演者たちは、名作漫画と宝塚歌劇の奇跡の融合を見せてくれることでしょう。満を持しての初ミュージカル化『ポーの一族』に、どうぞご期待ください!