前夜祭レポート
宝塚歌劇 宙組公演 三井住友VISAカード シアター グランド・ロマンス『王家に捧ぐ歌』-オペラ「アイーダ」より-の開幕に先立ち、2015年5月18日(月)に宝塚大劇場で「前夜祭」が開催された。今回は、その模様をお届けしよう。
「前夜祭」は、宝塚歌劇を卒業後も女優として第一線で活躍中の湖月わたるさん、安蘭けいさん、檀れいさんら2003年星組初演時の主要キャストをゲストに迎え、宙組トップスター・朝夏まなとを筆頭に現役生も参加し、贅沢なコラボレーションが実現。「前夜祭」の立ち見券は早々に完売、という大盛況ぶりからも、再演を懐かしむ方々や新生宙組の新たな門出に想いを寄せる方々など、本公演への期待の高さがうかがえる。
現役生による公演のダイジェスト版を堂々披露。
懐かしいあのシーンが、瑞々しく、あらたに蘇る…
懐かしいあのシーンが、瑞々しく、あらたに蘇る…
お稽古まっただ中の現役生が、「前夜祭」のためにだけに準備された公演のダイジェスト版を披露。
幕開き、前夜祭で宙組生としてのお披露目を果たしたアイーダの兄ウバルド役に扮した真風涼帆の伸びやかな歌声からスタート。本作プロローグの印象的なシーン、「甦る魂」を宙組出演者により一部を再現。定評ある宙組のコーラスが幾重にも重なり、そのハーモニーに早くも圧倒される…。
その中心に、煌びやかな軍服姿が見目麗しいエジプトの若き将軍・ラダメス役の朝夏まなとと、エジプトの敵国、エチオピアの王女アイーダ役の実咲凜音。愛し合う二人、宙組新トップコンビの姿が、神々しいまでに光り輝く…。
新生宙組の“新しい”息吹が感じられる、このプロローグの再現を観るだけでも、本公演の成功を確信せざるを得ないだろう。
プロローグに続き、2幕冒頭の抜粋シーンへ。宝塚大劇場の舞台で、豪華な装置を用いた本番さながらのパフォーマンスに正直驚かされる。
過日の制作発表会で、ラダメス役がぴったりと評された朝夏。立ち居振る舞いが美しく、真っ直ぐで、颯爽とした彼女の雰囲気は、希望に満ち溢れた若きエジプトの将軍そのもの。アムネリスに対し、アイーダを愛していることを告白するシーンは、いつ幕が開いても良いのでは…と感じられるほど。
そんなラダメスに愛され、自身も彼を愛し始めるヒロインのアイーダ。12年前の初演時は、男役の安蘭けいさんが好演、ぴたっとはまった役どころだ。今回は、トップ娘役就任から、まもなく4年目、充実期を迎えた実咲だからこそ実現し得たキャスティング。舞台上の彼女の姿に、自然と納得させられる。
脇を固める、頼もしい助っ人も忘れてはならない。アイーダの父であり、エチオピア王のアモナスロが、さらにパワーアップして戻ってきた! 演じるのは、専科の一樹千尋。さすがの美声に思わず聞き惚れてしまう。
専科からは、もう一人。アムネリスの父であり、エジプトの王ファラオを演じる箙かおる。立ち姿一つとっても初演と変わらない、いやそれ以上に圧倒的な存在感を放っている。頼もしい限りだ。
公演のダイジェスト版の締め括りは、ラダメスとアイーダの希望に満ち溢れた場面。トップコンビにより、銀橋で情熱的に抱き合う、これまた印象深いシーンを、公演に先立ち一足先に披露。
演出を担当する木村信司が、朝夏&実咲の新トップコンビは、ロマンティックなところが強調できるカップルと評したように、「月の満ちるころ」のデュエットナンバーでは、既に“甘い”雰囲気が漂う。
今回の演出の方向性として、“愛”ただそれだけと語った木村の言葉も納得の仕上がりだ。
卒業生×現役生による熱気あふれる座談会
続くコーナーでは、2003年星組公演の初演で、主役のラダメス役を演じた当時の星組トップスター湖月さん、当時の男役スターであり、後、同組トップスターのアイーダ役・安蘭さん、当時トップ娘役でアムネリス役の檀さんが登場。
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卒業生は、現役生の公演にかける熱いパフォーマンスに“感動した”と興奮冷めやらぬ様子。一方の宙組現役生たちは、初演を務めた卒業生らを前に、少々緊張した面持ち。
そこで湖月さんがラダメスの長剣を持ち、当時と変わらないカッコイイポーズをキメめると、客席からは割れんばかりの拍手が起こり、一気にボルテージがアップ。卒業生による、当時の場面の再現も飛び出すなど、熱気溢れるトークが展開された。
当時を振り返り、「ラダメス役は、骨太で長剣に見合う男でなければならないという思いがあった」と湖月さん。さらに、「ずっしりと重い衣装や剣を身につけることで、自然と役に入ることができる」と朝夏にアドバイス。それを受けた朝夏は、「組子とお客様からの思いを、そして衣装や剣の重さを、将軍としての責任感に置き換えて、さらに役を掘り下げたい」と決意をあらたにした。
安蘭さんは、当時の想い出として、エジプトの女官たちに蔑まされる場面を挙げ、“床とお友達だった”と笑いを誘った。「女官の方々がすごく役に入り込まれていたので、リアルに悔しいという思いが演技に生かされた」と実咲にアドバイス。
アムネリス役の檀さんは、「まるで歩くセットのようで……」と、これまた会場の笑いを誘い、重い衣装で苦労したエピソードを明かした。
初演と今回の共通点として、宝塚大劇場のお披露目公演である点を挙げ、「エジプト側とエチオピア側に分かれているけれども、この作品で組がグッと一つになった」と湖月さん。組子であった安蘭さんも「“作品”と“組”をつくる両方の思いで一致団結した」と追随。卒業生3人ともに口を揃え、新生宙組の船出となる本公演に期待を寄せた。
卒業生×現役生のコラボレーションの実現
公演への期待感が、さらに高まる…
公演への期待感が、さらに高まる…
最後は、卒業生を中心に、現役生とコラボレーションした一夜限りのスペシャルなパフォーマンス。
口火を切ったのは、真風を中心とした男役たち(澄輝さやと、愛月ひかる、蒼羽りく、桜木みなと)が、「お前は奴隷」のフィナーレバージョンで、颯爽と登 場。芝居とはまた違った、これぞタカラヅカというショーナンバーに、ワクワクドキドキ。既にファンにはたまらない仕上がりっぷりだ。
卒業生のトップバッターは、大輪の花の如く艶やかな檀さん。「ファラオの娘だから」を熱唱する姿に、タカラヅカの娘役らしからぬ役とご本人も評したように、彼女の芝居心がアムネリスをここまで印象的な役に成し得たのだろうと今更ながら、あらためて実感させられる。
続いて安蘭さんが、アイーダのテーマ「アイーダの信念」を当時と変わらぬパワーをもって、説得力満点の歌唱を披露。会場がひれ伏すが如く、圧倒的な歌声が響きわたる様は圧巻。ストーリーが“見える”素晴らしい美声で、一気に作品世界に誘われた。
取りを務めるのは、初演と変わらぬ類まれなる存在感と力強さで、宝塚大劇場の空間を魅了する湖月さん。歌声一つでエジプトの若き戦士、ラダメスに…。当時と変わらぬ男前っぷりは健在。主題歌「世界に求む」を歌いながら銀橋を渡る姿に、思わず歓声が湧き上がった。
その湖月さんの歌声から、出演者全員のハーモニーへ。気付けば客席を巻き込んだ大合唱に発展、本公演の期待がさらに高まる前夜祭となった。
「大きな真っ直ぐな瞳がラダメスそのもの」と湖月さんからも太鼓判を押された朝夏。そんな朝夏率いる新生宙組が、どのような“愛”を本作で魅せてくれるのか…。
「前夜祭」を観るだけでも、多くの方々のこの公演に対する期待と、それに十分に応え得る公演であること、また新トップコンビを中心とした出演者の熱い血潮が、ひしひしと感じ取れた。
その感動と興奮は、ぜひ劇場でお確かめいただきたい。
卒業生
湖月わたるさん(ラダメス役)
12年前に、関係者やスタッフの皆様、出演者が一丸となって作り上げた、この『王家に捧ぐ歌』。今回、宙組の皆さんで再演していただけること、そして前夜祭に呼んでいただけたことを本当に嬉しく思っております。
安蘭けいさん(アイーダ役)
先ほど、現役生のパフォーマンスを舞台袖から拝見して、12年前に自分も演じていたんだなと、一気に当時のことが蘇り、(娘役を演じて)楽しかったことや苦労したこと、気恥ずかしかったりしたことも思い出されました。
檀れいさん(アムネリス役)
大好きなこの作品が再演と伺った時は、嬉しくて嬉しくて、(前夜祭で披露する)歌の練習をしながら、嬉しすぎて泣きそうになりました。私も、もう一度演りたいという気持ちになりました。
宙組
朝夏まなと(ラダメス役)
『王家に捧ぐ歌』という素晴らしい作品で、新生宙組がスタートできますことを、本当に嬉しく思っております。初演の皆様の貴重なお話を伺って、自分たちの公演の糧にしたいと思っております。
実咲凜音(アイーダ役)
このような機会をいただけて本当に幸せです。初日に向けて今日を糧とし、作品と役にすべてをかけ、ラダメスを最期まで愛し続け、役を全うしたいと思います。
真風涼帆(ウバルド役)
宙組生となり今日で1週間。このような機会をいただき、早々に宙組生デビューをさせていただけて、本当に光栄だと思っております。
澄輝さやと(カマンテ役)
この素晴らしい作品にどっぷりと浸って、エチオピアの家臣であるカマンテ役を、エジプトの方々に負けないように、熱く頑張りたいと思います。
愛月ひかる(ケペル役)
ラダメスの友人として、エジプトの戦士として、複雑な心の動きをお客様にきちんとお伝えできるよう、演じて参りたいと思います。
蒼羽りく(サウフェ役)
この作品に出演できることが、とても幸せです。エチオピア人としてエチオピアを愛し、エジプト側との違いをしっかりと出していきたいです。
桜木みなと(メレルカ役)
ラダメスの友人として、頼もしく力強く、そして組子としても、朝夏さんを支えて行けるように頑張りたいと思います。
伶美うらら(アムネリス役)
エジプトのファラオの娘・アムネリス役を演じますので、国の煌びやかな背景までを、しっかりと演じていけるように頑張りたいです。
専科
一樹千尋(アモナスロ役)
本作は“愛”がテーマです。我が娘や息子、臣下たち、エチオピアの民たちにも、そしてエジプトの皆様にも…、それぞれに愛があります。アモナスロにも王としての愛がありますので、見出していただければ幸いです。
箙かおる(ファラオ役)
12年前に、この『王家に捧ぐ歌』に出演させていただきました。今回の再演でも、同じ“ラーの息子”として君臨させていただきます。どうぞご期待いただければと思います。